※MidjourneyとGeminiに依頼して描いてもらいました。
前書き
今回のお話は、
前回の「お菓子タイムの不思議」を、
ナインの視点から、もう一度たどったものです。
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出来事そのものは、ほとんど変わっていません。
同じテーブル、同じお菓子、同じ時間。
ただ、見ている位置が、少しだけ違います。
もしまだでしたら、
先に「お菓子タイムの不思議(オリジナル)」を
軽く読んでみてください。
そのあとで戻ってくると、
このお話の空気が、少し変わって感じられると思います。
もちろん、
何も考えずに、そのまま読んでも大丈夫です。
ただのお菓子の時間として、
流れていく会話として、読めます。
でも、
ほんの少しだけ注意深く読んでみると、
同じ場面なのに、
人によって見えているものが違うことや、
その違いが、きれいに分かれている理由についての
小さなヒントが、どこかに置かれているかもしれません。
見つからなくても、問題はありません。
気づいた人だけが、
もう一度、ケーキの切り口を見る――
そんなお話です。
登場人物
フレア
エニアグラムと物語の相性について、ひとりで静かに考え続けている人。
理屈は得意だが、自分の研究を人に話すことにはあまり積極的ではない。
質問されると、必要な分だけ答えてくれる。

ナイン
とある出来事をきっかけに、この場にいるようになった。
分かろうとはしているが、自信がなく、言葉はいつも慎重。
むずかしい話を「人の気持ち」に置きかえて考える役目。

リオン
とある出来事をきっかけに、この集まりに加わった。
細かい理屈よりも、みんなが前を向けているかどうかを大事にしている。
困った時は、黙って場を支える頼れる存在。

ソラノ
フレアが抱えている考えを、外に出そうと何度も声をかけている。
むずかしい話ほど軽く受け取り、ふざけた言葉で核心を突く。
分かっているかどうかより、「変だな」と感じる感覚を信じている。

お菓子タイムの不思議
――ナインの視点から
……えっと。
ぼくの話です。
たぶん、
いつもの、お菓子の時間です。
ケーキがあって、
お茶があって、
みんなが、そこにいました。
それだけ、なんですけど。
でも、
あとで思い出すと、
少しだけ、変でした。
ぼくは、お茶をいれました。
どのカップに、どれを置くか、
少しだけ、考えました。
順番を、間違えないように。
変にならないように。
リオンが、ケーキを切ります。
まっすぐ、真ん中から。
四つに分かれて、
場所ができます。
……見ていると、
何も言わなくていい時間が、
のびた気がしました。
ソラノは、もう食べています。
フォークをさして、
すぐ、口に入れて。
「これ、すき」
そう言われて、
ぼくは、ケーキを見ました。
……まだ、
ぼくは、食べていません。
前にも、
こんなふうに、
ケーキを見ていたことがありました。
となりに、
人がいました。
たぶん、兄です。
何を話したかは、
覚えていません。
でも、
何も考えていなかった感じだけは、
覚えています。
それから、
同じものを食べていても、
ちょっと、ちがいました。
ちゃんと、終わる感じです。
フレアさんが、話します。
……むずかしいです。
途中から、
よく分かりません。
でも、
聞くのをやめるのも、
ちがう気がして。
分からないまま、
座っていました。
ソラノが、やめて、
リオンが、笑います。
フレアさんは、
最後に、短く言いました。
「連続的な変化の中で、
安定する構造が限られている、というだけです」
そのとき、
ぼくは、ケーキを見ました。
さっきまで、ひとつだったのに。
今は、分かれています。
……そのままにするのは、
少し、いやでした。
「ナイン」
名前を呼ばれて、
少し、びっくりしました。
言わなくても、
いいです。
たぶん。
でも、
言わないと、
あとで、変な感じが、残りそうで。
だから、
少しだけ。
「……ぼくの考え、なんだけど……」
声が、
思ったより、出ません。
「分かれてるのって……」
止まります。
「……いっしょのまま、
いたかったから……かも」
言い終わって、
すぐ、
「ごめん」って言いました。
しばらく、
何も起きません。
フレアさんは、
何も言いません。
でも、
ちがうとも、言いませんでした。
ソラノは、
フォークを止めています。
リオンは、
自分の皿を、
ぼくのほうに、少し動かしました。
それを見て、
ぼくは、フォークを持ちます。
小さく切って、
一口だけ。
苺とラズベリーの粒が、
先にほどけて、
少し遅れて、
ブルーベリーの重みが来ました。
そのあと、
押し返すように、
スポンジが形を戻して、
最後に、
空気みたいな白いところが、
全部をまとめます。
ぼくは、
思わず、目を開いたまま、
動かなくなりました。
リオン
「よし。
今日は、いいお菓子タイムだな。」
ソラノ
「うん。
結論とか、
いらない日。」
その言葉を、
そのまま、
胸の中に置きました。
声にすると、
形が崩れそうで。
フォークを、
まだ持ったまま、
机の木目を、
少しだけ、なぞります。
それ以上、
動かせませんでした。
でも、
フォークを置いて、
もう一度だけ、
皿を見て。
今日は、
これで、
十分な気がしました。
ナレーターの一言
同じ机。
同じケーキ。
同じ時間。
それでも、
見ているものは、少しずつ違っていた。
切る人がいて、
先に口に入れる人がいて、
言葉を選ぶ人がいて、
ただ配置を眺める人がいる。
誰かが正しくて、
誰かが間違っているわけではない。
ただ、それぞれが、
同じ場面の別の位置に立っているだけだ。
そして不思議なことに、
その違いが集まったとき、
場は止まらず、
少しだけ前に進む。
たぶんそれは、
性格そのものではなく、
その人が自然に引き受けてしまう
役割のようなものなのだろう。
気づいた人だけが、
もう一度、
ケーキの切り口を見る。
――そこには、
ひとつだったものが、
ちゃんと分かれて、
それぞれの場所に落ち着いている。